東京高等裁判所 昭和47年(行コ)43号 判決 1973年10月26日
東京都江東区亀戸三丁目五九番一四号
控訴人
有限会社 叶商事
右代表者代表取締役
堀節治
右訴訟代理人弁護士
藤川成郎
東京都江東区亀戸二丁目一七番八号
被控訴人
江東東税務署長
佐藤保夫
東京都千代田区大手町一丁目三番二号
被控訴人
東京国税局長
中橋敬次郎
右両名指定代理人
森脇勝
高橋郁夫
柴田定男
泉類武夫
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人江東東税務署長が昭和四三年五月二九日付で、控訴人の昭和四一年一〇月一日から同四二年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち、東京国税局長の審査裁決によつて維持された部分を取消す。被控訴人東京国税局長が控訴人の前記更正処分に対する審査請求につき昭和四四年八月二六日付でした裁決のうち、右処分を維持した部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。一との判決を求め、被控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の陳述および証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、左記(一)(二)と述べた外原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(たゞし原判決二枚目裏七行目、同三枚目表六行目および六枚目裏二行目に「堀節治」とあるを、いずれも「堀邦太郎」と訂正し、原判決三枚目表七行目および六枚目裏三行目に「同人」とあるを、いずれも「堀節治」と訂正する)。
(一) 控訴人は、昭和四二年九月三〇日に終了する事業年度の決算確定時点ないし該年度の確定申告の時点において、堀節治に対する不当利得返還請求権を、確定した権利として有していたものではない。すなわち堀節治の提起していた国税債権の取消訴訟において同人が勝訴すれば、詐害行為取消権の保全すべき租税債権が無に帰するわけであるから、当然国は前記各建物を控訴人に返還すべきものとなり、不当利得返還請求権は成立たなくなるのである。
(二) 本件雑損失発生ないしその計上と同時に不当利得返還請求権が発生したと認められる場合においても、被控訴人江東東税務署長が当初の更正において認定したように、当該請求権の計上もれがあつたとするのが控訴人の真意に近いのであつて、控訴人の意思に反して請求権の放棄があつたと認めた被控訴人東京国税局長の裁決は、審査請求人たる控訴人の不利益に更正処分を変更したもので、法の許さないところである。
理由
当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、いずれも失当であると判断するものであつて、その理由の詳細は、左記の外原判決理由に記載するとおりであるからこれを引用する。
(一) 原判決九枚目裏四行目に「原告の自認するところであるばかりでなく」とあるを削り、代りに「前記説示のとおりであるところ」と附加する。
(二) 控訴人は、堀節治が別件で争つている同人の租税債務に関する訴訟の結果によつては、控訴人の堀節治に対する不当利得返還請求権は成立たなくなると主張する。しかしながら右訴訟において、仮りに堀節治が勝訴したとしても、国が同人に対し過払税額を返還する義務を負うにすぎないのであつて、詐害行為取消訴訟の確定判決の効力がこれによつて左右されるものでないから、控訴人は、堀節治に対して有する前記不当利得返還請求権を失うものではない。従つて控訴人の右主張は失当である。
(三) 控訴人は更に、被控訴人東京国税局長のした裁決は、原処分を審査請求人たる控訴人の不利益に変更したものであると主張する。しかしながら右裁決は、原処分の堀邦太郎に対する仮払金計上もれ金一、六九七、九三四円に代えて堀節治に対する寄付金があつたものと認め、右金額のうち一、六八七、九三四円を寄付金の損金不算入額としてこれを益金に加算し、控訴人の取消請求を一部認容して原処分の一部を取消したものである。従つて右裁決は原処分の範囲内で原処分を維持したものであり、審査請求人の不利益に原処分を変更したものではないから、控訴人の右主張も理由がない。
以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩野徹 裁判官 中島一郎 裁判官 桜井敏雄)